野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【1回裏】知ってるようで本当は知らない。プロテインの正体
[1回裏1/6] プロテインって、効くんですか?

10年前も今も、こう聞いてくる選手がとても多い。
あと「いつ飲むと一番効くんですか?」というのもよくある質問。

質問を質問で返すのはよくないことだけど、
私はつい「プロテインって、日本語でいうとなんだ?」って聞いてしまう。
すると、答えられない選手が意外に多い。さて、プロテインってなんだ?

プロティンは直訳するとタンパク質
プロテインの語源は、ギリシャ語で「第一の」という意味の言葉。
体の材料だから「第一」なのだ。

そう、肉や魚や卵や豆や乳製品にいっぱい含まれている体の材料となる栄養素だ。
だから豚のしょうが焼きを食べても、目玉焼きを食べてもプロテインはちゃんと取れるのだ。

一般に選手が「プロテイン」と称しているのはプロテインパウダーのこと。
牛乳や大豆などのタンパク質源から脂肪を取り除き、吸収のよい形にしてビタミンやミネラ ルなど各種栄養成分を加えた粉末の食品。

プロテインパウダーには動物性、植物性があるが、最近では牛乳から抽出したホエイ・タイプのものに人気が集まっているようだ。

商品によっていろいろだけれど、一回使用量に含まれるタンパク質の量は7〜13g程度。
牛乳に溶かして飲んでも多くて20g以下。
20gのタンパク質は大きめの鮭一切れに含まれるのと同じくらいの量になる。

「あれだけ飲んでたった鮭一切れ?」 と思った選手は、プロテインパウダーの味が好きじゃないんじゃないかな?
逆に 「あれっぽっちで鮭一切れ分も」と思った選手は、逆に鮭や魚嫌いかな。
どっちにしても、この機会にプロテインパウダーと食べ物の関連性をきちんと考えてみよう。

プロテインパウダーも鮭と同じ立派な食品。薬じゃない。

20gのタンパク質を鮭で取るのか 、プロテインパウダーで取るのかは、その日の状況に合わせて選べばいい。




[1回裏2/6] 知ってるようで本当は知らない。プロテインの正体

では、成長期の野球選手に必要なプロテイン(タンパク質)の量はどのくらいだろう。

運動をしない一般成人でその必要量は体重1kgあたり1.03g。
体重60kgの人だったら60gとされている。

成長期の野球選手の場合、およそその倍の体重1kgあたり2g程度を目安にするといいだろう。
体重60kgの選手の場合120gくらいだ。数字だけじゃきっとピンとこないと思う。

詳しくは、後ろの項に出てくるけれど、この量は1日3食の食事で毎食に肉、魚、豆、卵のおかず1、2品程度と、乳製品を食べていれば決して不足する量ではない。

タンパク質(プロテイン)は、体の材料になるとても大切な栄養素だけれど、多く取ればいいってものでもない。

タンパク質の取りすぎは、内臓に負担をかけることになるのだ。
何事も適量を知ることが必要なのだ。

実際、筋肉をつけようとプロティンパウダーやアミノ酸を山のように飲んでいたボディービルダーが、肝機能障害で入院したのを知っている。ボディービルダーでさえこうなのだから、ジュニア選手は取りすぎには細心の注意が必要。

だから、まず、今の食事でプロテインが足りているかどうかをチェックして、足りない時に何で補うかを考えよう。



[1回裏3/6] 足りないのは「プロテイン」じゃなかったりする

これは、私が多くの高校野球選手を見てきた経験で感じることだが、今の選手の食生活は、スナックと肉類が中心で、野菜や魚、乾物類を食べる量が少ない傾向にある。
この場合、プロテインは足りているけれど、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足し、脂肪の取りすぎになりやすい。

でも、こういう選手たちが時々 「プロテインを飲むと調子がいい」 といってくる。
プロテイン自体は食事で足りているのになぜなのか?

その原因は、どうも多くのプロテインパウダーに添加されているビタミン、ミネラルなどの栄養素にあるようなのだ。
要するに、本来、食事から取らなければいけない栄養素を、知らないうちにプロテインパウダーに頼ってしまっているのだ。

こういう栄養補助食品(サプリメント)の取り方が一番怖い。
バントのサインを見逃したあげくに、やたらにバットを振ったら、たまたまヒットになったようなもので、長くは続かない。

近頃では「サプリメント」という言葉がひとり歩きしているが、いうまでもなく 「サプリメント」 という栄養成分があるわけではない。不足させたままでいい栄養素はないが、絶対にサプリメントから取らなければならない栄養素というのもない。何が必要なのかは、選手一人一人で違うのだ。

目的を持って、狙いを定めてプロテインを取らなければいけない。
ビタミンにしてもミネラルにしても、取りすぎが逆効果になるものもあるのだから。

だから、やみくもにプロテインパウダーを飲む前に、何が自分に足りなかったのかチェックし、
ダイレクトに自分に足りない栄養素を補う工夫をしたほうがよりよい体調を得られるはずだ。
プロテインパウダー以外にも体調をよくする食べ物はいっぱいあるのだから。



[1回裏4/6] 栄養補助食品の選び方にはコツがある

プロテインパウダーに限ったことではなく、すべての栄養補助食品にいえることだけど、まず、自分の現状、食事の内容を一度しっかり見直すこと。
そのうえで、補足する食べ物のひとつの選択肢として考えるのが、その名の通り「栄養補助食品」なのだ。

プロテインパウダーもビタミン剤も魔法の粉や錠剤ではない。

栄養補助食品を選ぶ時、気をつけたいのは価格と原材料、そして内容成分。
一回使用量あたりいくらかかって、その際に取れる栄養素はどういうものがどのくらい入っていて、それが何から作られているのかは知っておきたい。

中にはそれらがはっきり明記していないものもあるが、その場合は、各メーカーに問い合わせてみるといいだろう。

その際、これらのデータがはっきり出てこないメーカーのものは基本的に信用しないほうがいい。
同時に価格が食品のレベルを超えるほど高価な場合も凝ってみる必要がある。

また、一回使用量はうのみにしないこと。
どの程度、自分に必要なのかは、それぞれの食事内容に関わってくることなのだ。

また、前記したプロテインパウダーの例でもわかる通り、栄養素は多ければいいというものではない。

例えば、ビタミンAやビタミンDなどは、ビタミンという名はついているけど、取りすぎると過剰症がある。
試合の得点は多いほどいいけど、栄養素はそうもいかないことがあるから、ちゃんと覚えておく必要があるのだ。

ビタミンAやビタミンDは水に溶けず油に溶け出す脂溶性ビタミン。水溶性ビタミンのBやCのように取りすぎたり余った分が尿と一緒に排出されないで、体に蓄積されるので過剰症がある。

さらに、吸収が早いということがいいとも限らない。
吸収が早いということは、水溶性の栄養素の場合、使われなければそれだけ早く外に出ていってしまうことでもあるし、一度に大量に吸収されることは、内臓の負担になる場合もあるのだ。

そのため、水溶性ビタミンのBなどのサプリメントは、Sastained Releaseという少しずつ吸収される形にしたものもある。特にビタミンCは、大量に取ると刺激が強いので、Bufferedタイプの刺激を弱めた商品も出ている。



[1回裏5/6] 栄養補助食品が活躍する時

あえて今まで栄養補助食品についてネガティブなことばかり書いてきたけど、人間が食べられる食品に基本的に善し悪しはない。必要な栄養素をすべて無農薬無添加の食べ物から取るのが理想なんだろうけど、現実的にそこまでは無理だし、ストイックになりすぎると食べるという行為が本来持つ楽しさや喜びまでも失ってしまう。
大切なのは取り入れ方なのだ。

プロテインパウダーは携帯しやすい。

大きめの鮭一切れをいつも携帯していようとは思わないだろうし、遠征時や合宿など、どうしても食事でプロティンが足りなくなりそうな時は便利な食品だ。また、夏などどうしても朝ごはんが食べにくい時も取りやすいし、練習が終わって家に帰るまで時間がかかる時の補食のひとつとして考えてもいいと思う。

心配なのは、それが何かよくわからないままに 「効果」を求めて頼りきってしまうことだ。持にスポーツ選手は体作りとパフォーマンスの向上のため、何かに頼りたくなってしまう状況が多い。

でも 
「ポパイのほうれん草」 は、人間にはない。

何かそれだけを食べていれば筋肉がモリモリついてきたり、急に強くなったりすることは絶対にない。
あるとすればそれはドーピングなのだ。
サプリメントは、頼るのではなく補うものであることを忘れないでほしい。

だいたい、考えてみてほしい。
カナリアや金魚のように 「エサ」 だけ食べて生きていければ楽なようだけど、それじゃ全然楽しくない。
それに、寝転がってサプリメントを飲んでいるだけで野球がうまくなるのなら、チーム練習など本気でやらなくなるだろう。そこからチームワークは生まれない。一緒に汗を流してがんばった友情は生まれない。

成長期からとりあえず何かに頼るというような、精神的なドーピングのクセをつけることはあってはならない。

もちろん、将来的にもダメだ。人間がアンドロイドのようになるのは映画の中だけにしておこう。
だからこそ、ちょっと変わった形の食品には、その分考え方、選び方、使い方をはっきりさせておく必要があるのだ。




[1回裏6/6(父母へ)] 横文字ラベルに惑わされないで

息子がプロテインを買ってくれといってきたら

「それって何? 何のために飲むの?」と聞いてみよう。
で、納得できる答えが返ってくるまで、何度でも聞き返そう。

プロテインパウダーをはじめ多くの栄養補助食品には横文字やカタカナがいっぱい書いてあって、それがなにやらとても効きそうに感じると思うが、これらはあくまで食事の補助。
今の食事の中でどうしても取りきれない栄養素をサポートするもの。だから、その足りないものは何なのか? それを補うためにどうしてこれがいいのか? は選手自身の責任で知っておかないといけないことなのだ。

「よくわからないけど、効くんだって」なんていってくるうちは、絶対お金は渡しちやいけない。


[1回裏6/6(指導者へ)] 指導者とサプリメントのスタンス

おそらく指導者のもとへは、いろいろなサプリメントの情報が入ってくると思う。

しかし、よいものなら使いたいが、実はなんとなく縁故のあるものを時々チームで取り入れてみたり・‥という指導者が多いのではないだろうか? 

チームで一括して取り入れる時には、その商品についての説明(コンセフト、成分、使用頻度、価格、個人差など)はメーカーから直接しっかり聞くこと。また、同時にメーカー外の栄養士や保健教諭、医師などサプリメントに詳しい人の意見も聞くといい。

そして、期限付きで取り入れ一定期間後、今後も必要かどうかしっかり評価を下すことが大切。
選手一人一人の食事が違う場合は、そのサプリメントがすへての選手に必要とは限らないのだ。


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