野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【3回表1/4】  一杯の水が救世主。そのタイミングを熟知しよう

■私たちの体は水でできている

 地球は 「水の惑星」と呼ばれる。
そこで生まれる私たちも、大人で体の約6割、子供は約7割は水分なのだ。この数字だけみれば、例えば異星人から「地球人は水でできている」といわれても不思議はないだろう。

人は特に運動しなくても大人で毎日2〜2.5Lの水を出し入れしている。高校球児のように、代謝が活発で運動していっぱい汗をかいていたら、もっとたくさんの水を毎日必要としているのだ。

さて、汗はなんでかくのだろう? 汗は体温を一定に保つための大切な冷却水。運動中、私たちの体はたくさんのエネルギーを燃やし、体は熟くなる。
汗が出てこなくなると体温が上昇し、オーバーヒートを起こしてしまうのだ。汗の原材料は水とミネラル。ずっと汗をかく状能が続くと、これらが足りなくなって、汗さえうまくかけなくなってくる。
同時に血液は水分不足から粘度を増し、流れが悪くなる。自分の体重のわずか3%ほどの水がなくなっただけで、このような脱水症状が起こってしまうのだ。

 だから、暑い日や野球に限らず運動をする時は水を早めにしっかり取ることがとっても大切になる。中でも野球は夏場、長時間灸天下で練習することも多く、他の競技に比べ圧倒的に熱中症を起こしやすい環境にあるのだ。


■なんで昔は「練習中は水を飲むな!」っていわれたんだろう?

 それなのに、どうして昔は練習中に水を飲ませてもらえなかったんだろう?
今の選手には考えられないかもしれないが、その昔、野球に限らず、多くの競技の選手たちは運動中、水を飲むなといわれていた。いまだにその呪縛に苦しみ、運動中に水を取ることを怖がる選手や指導者もいる。

 どうして「水はよくない」といわれていたのか? 根性論の問題もあるが、「途中で水を飲むと選手の調子が悪くなる」といいきる指導者が以前はとても多かった。また「選手に任せると水を飲みすぎる」との指摘がよくあった。

しかし実際には、練習中に水を飲みすぎて、練習後、練習前の体重を上回るような選手はいないのだ。少なくとも飲んだ分の水分は、練習によって汗として出ていく。

 練習中や試合中そしてその前後、水は絶対飲んだほうがいい。ただ、問題は飲み方なのだ。
今でも選手の水分補給を見ているとタイミングの遅さを感じることが多い。ノドが乾いてからガブガブ飲むのでは遅いのだ。これでは大量の水が胃にたまってしまって、動きが悪くなる。



【3回表2/4】  一杯の水が救世主。そのタイミングを熟知しよう

■水分補給は先手必勝!早めにちぴちぴちょこちよこと
●日常生活編
 水分は早めの補給を心がけよう。これは運動中に限らず、日常生活についてもだ。
まず、朝起きたら水分補給。寝ている間には想像以上の汗をかいていることを知っておこう。
そして、朝食。水分補給というと「飲む」ことだけを意識してしまいがちだけど、「食べる」ことによっても水分は補給されている。食べ物も人間同様、地球で生まれて育った生き物。私たちは食事からたくさんの水分を取ることができるのだ。夏など、暑くて朝食の量が減ってしまうということは、水分を取る量も減ってしまっていることを忘れずに。

さらに、例えば授業の合間の休み時間にもこまめに水を飲んでリフレッシュ。
血液の粘度が高まると頭にも血が回りにくくなるから、だるくなったり、眠くなったりすることがある。こまめな水分補給で勉強にも集中しよう。

 このように、ふだんの生活から水分補給を心がけてクセをつけておくことも水分補給のトレーニングなのだ。


●練習編
 さて、練習に際しての水分補給は、まず練習前にコップ1、2杯の水分を取る。練習中は「なるべくこまめに、一度に取る量は少なめに」が基本。理想的には「15、20分おきに100cc程度の補給」。でもこれは、野球の練習形態ではちょっと難しいかもしれない。

 それでも、できれば30分以内の間隔で一回にコップ1杯程度の補給を基準に考えたい。そのためには各自がペットボトルなどで水を用意し、常に自分の補給しやすいところに置いて個人で管理したり、飲む前にうがいをして、口の中に入った砂やホコリ、粘りを除き、口の中の温度を下げてから、少しずつ飲むようにするなどの工夫をしよう。

 また、クラブで準備している大きなウォータージャグ(注ぎ口のついた大型の水入れ)にスポーツドリンクを用意し、練習途中での糖分とミネラル補給に利用するのもいい。ただし、このウォータージャグの衛生状態は大丈夫だろうか? 定期的に消毒はしているだろうか? 体育用具室の床にラインマーカーと一緒に置いてある、なんてことはないだろうか?
 水は衛生を守るためにも大切なものだが、同時にばい菌を繁殖させ運ぶこともできるのだ。特にスポーツドリンクなどの糖分入りのドリンクを作ったままで放置すると、糖分が栄養になり、ばい菌が繁殖しやすくなる。毎日、使用後はしっかり洗って、定期的に消毒しよう。

 さらに、しっかり水分が補給できているかの目安として、時には練習前後の体重測定をしてみるといいだろう。その差は体から出た水の量だから、その重さが体重の3%以上では脱水状態。水分の補給が足りなかったということになる。また、練習後、水ものばかりが欲しくて、固形物が食べられないというのも水分補給が遅れた証拠。自分が意識している以上に早めに取っておく必要があることを意味している。




【3回表3/4】  一杯の水が救世主。そのタイミングを熟知しよう

■水分補給は先手必勝!早めにちぴちぴちょこちよこと
●1年生編
「自分はたいして動いてないから、水はいいです」。水分補給を促すとこう答える1年生が多い。でも、実際データでみると、熱中症の主役は1年生なのだ。
こんなところで主役になっても仕方ない。

 同じ練習でも、練習に慣れず、無駄な動きの多い1年生は、効率のよい動きをする上級生に比べ、エネルギー消費も汗をかく量も多い。なのに余裕がないから、ノドが乾いていることさえも自覚していない場合が多い。そのうえ、上級生が飲む前に、下手な自分が先に飲んでは申し訳ないという遠慮も手伝って、水分補給のタイミングが遅れやすい。

 また、球拾いなどで、動きが少なく、立ちっぱなしの1年生も要注意。脱水状態でじっと立っていることでさらに血液循環が悪くなり、起立性低血圧になりやすいのだ。こういう時こそ、しっかり水分を取って軽く体を動かし血液循環を促さないととても危険であることを知っておこう。
激しい動きだけが体の負担ではないのだ。

 それでも1年生は、どうしても上級生を見てから行動する。遠慮する選手も多い。だから、ここは上級生のほうから、1年生に遠慮なく水分補給ができる環境を作り、1年生の入部時に、水分補給の意味と、効果的な飲み方をしっかり伝えてあげてはしい。


●試合編
 試合中の水分補給の基本は練習中と同じ。ただ、試合前は緊張と慣れない球場設備からアクシデントが起こりやすいので、いつも以上に意識して早めに水分を取っておくことが大切だ。

 試合中、特に気をつけてほしいポジションはバッテリーだ。
先発ピッチャーは、他のポジションに比べ運動量が多くなる。後半のことも考えて、早めに水分、糖分、ミネラルを補給しておこう。水やスポーツドリンクの他に、飲むタイプのゼリーやタブレットでの補給も有効だ。

 一方、キャッチャーは防具をつけるため、発汗量も多くなる。そのうえ、打順の関係などで、急いで防具をつけてグラウンドに出なければならない状況が多く、水分補給まで気が回らないこともある。こういう時こそチームワーク。
ベンチの誰かが必ず飲み物を用意し、確認するようにしよう。

飲むだけが水分補給ではない
また、飲むばかりが水分補給ではない。グラウンドに水をまくように、顔や手、首筋などを洗う、濡れたタオルで拭く、着替える回数を多くして汗をとるなど、こまめに手入れをしてなるべく体を快適な状態にするよう心がけよう。




【3回表4/4】  一杯の水が救世主。そのタイミングを熟知しよう

父母へ ■「日頃の水分補給が大切」
選手が水分を必要としているのは練習中ばかりではない。

代謝量が多い選手は運動をしていない時でも多くのエネルギーを消費し、同時に水も必要としている。日頃から、こまめに水分を取る習慣が必要になる。

特に朝は脱水症状気味。朝食にスーフや味噌汁など、水分の多いメニューがあるといい。
また選手はどうしても冷たい飲み物を好む。
冷蔵庫には水とお茶は常に用意しておき、基本的な水分はこれら糖分を含まないもので補給するように仕向けよう。食事の邪魔にならないようにするためだ。

でも夜はあえて温かい飲み物をすすめてみよう。内臓の冷えを防止し、消化吸収を助けてくれるからだ。
貧血気味でなければ食後のお茶もいい習慣。ビタミンCとカテキンの効果が期待できる。


指導者へ ■「チーム独自の水分補給方法を考える」

 ある指導者が私にいった。「自分たちは水を飲まずに練習してきたから、選手に水を飲ませるのが、いまだになんとなく怖い」・‥同じような思いを持っている指導者はかなり多いのではないだろうか? 本文でも触れた通り、飲み方によっては水はパフォーマンスの邪魔になる。

飲み方が重要なのだ。そして、この飲み方は各チームでしっかり考えてほしいのだ。

練習時間、グラウンドの広さ、部員数、ウォータージャグの数、水場の確保、マネジャーの有無などの環境の違いによってベストの水分補給の方法もチームによって違うはず。

ベストな水分補給方法は練習にロスタイムを生まない。練習の効率を高めるためにも、選手と−度真剣に話し合ってはどうだろうか。




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