本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。 |
【4回表1/5】 |
朝メシをなめるな。ウォーミングアップは朝食からはじまる
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選手に「朝ごはんしっかり食べてきた?」と聞くと、たいてい「はい」と答える。
でもこれがくせ者。「しっかり」の認識は選手よって実にさまざまなのだ。
ある調査では、今「小学生の4人に1人は朝食欠食」とのこと。この現状から考えれば、たとえ「菓子パン1個にジュース」でも、「しっかり朝ごはん食べた」 といいきる選手がいても不思議ではないのだろう。
しかし、野球選手の朝食となるとこれではいけない。こんな朝ごはんで野球をやろうなんて、野球をなめちゃいけない。
体以上に頭はエネルギー源を欲しがっている
野球選手にとって朝ごはんは、まず体のエネルギー源であると同時に脳のエネルギー源。
脳細胞は想像以上に多くのエネルギー源を必要とする。常に考え、脳細胞を働かせていなければ野球はできない。さらに勉強もあり、試合が日中にある高校球児にとって、朝ごはんは、頭の働きのためにもなくてはならない存在なのだ。
午前中、ぼ−っとして集中力散漫になって怒られたり、どうも調子が出ないと感じる選手、もしかしたら頭のエネルギーが足りていないのかも。
朝ごはんを見直してみよう。 脳のエネルギー源は糖質。
ごはん、パン、麺、芋、餅などのでんぷん質を中心にしっかり糖質を補給するとともに、その代謝に欠かせないビタミンB群を合わせて取ることが必要だ。胚芽米、全粒粉パンなど、ビタミンB群を同時に摂取できる穀類も積極的にメニューに取り入れたい。
朝ごはんからウォーミングアップははじまっている
さらに忘れてならないのは 「食事は体温を上昇させる」 ということ。これは前記の調査で朝ごはんを食べてこない児童に低体温が多くみられることでもよくわかる。
練習や試合前に体を温めるためにジョギングやストレッチなど、ウォーミングアップをしない選手はいないだろう。でも実は、ウォーミングアップは朝食からはじまっているのだ。
朝食をおろそかにしているということは、その時点で野球をおろそかにしているということ。
逆にいえば、朝食をしっかり食べることがライバルに差をつけることになるのだ。
食べること自体、体を温めるが、中でも食後の体温上昇には、食事中のタンパク質が欠かせない。そう、プロテインだ。卵・魚類・豆類・肉類・乳製品などのタンパク質源を、毎朝食べているだろうか? これらは体の材料であると同時に、体を温めるためにも重要な栄養素なのだ。
毎朝、菓子パンとジュースでは筋肉もできないし、ウォーミングアップにもならない。
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【4回表2/5】 |
朝メシをなめるな。ウォーミングアップは朝食からはじまる
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具体的にどのような朝ごはんがいいのか? 実際のメニューは巻末のメニュー集を参考にするとして、そのポイントと意味をまとめてみよう。
@主食
体と頭のエネルギー源。ごはん、パン、麺、餅など。これをしっかり食べられるように日頃からトレーニングしておくこと。
よく、試合前のことばかり気にする選手がいるが、日頃食べられるトレーニングをしていないのに、試合のプレッシャーがかかった時に、いつも以上に食べようというのは絶対無理。
それでも無理して食べれば消化不良を起こすだけ。自分がどれだけの主食を食べられるのか、毎朝チェックしながら食べよう。
前記した通り、これらの代謝にはビタミンB1が欠かせない。おかずで工夫するのもいいが、ごはん (お米) を胚芽米にしたり、強化米を加えたり、パンを選ぶ時、全粒粉のものにすると主食自体ビタミンB1強化になる。
また、食欲のない時にはシリアル (コーンフレーク類) を利用しよう。ビタミン・ミネラル・食物繊維が一緒に取れるシリアル類は、欧米の選手がとてもよく利用する朝食メニューのひとつだ。
A主莱
主莱とはメインのおかず。卵・肉・肉加工品・魚・豆など、体の材料であり、体温を上げるタンパク質とミネラル、ビタミンがいっぱい取れる料理だ。
朝は簡単にしようとすると、「ごはんに味噌汁」 「パンにジュース」 になりやすく、これらの栄養素が不足してしまう。
主菜になるおかずを食べよう。なにもごちそうでなくていい。卵に納豆+じゃこでもいいし、焼き魚に豆腐でも、ハムエッグでもいい。多少なりともタンパク質が含まれるおかずを1品食べる習慣をつけておくこと。時間がない時は、食パンにチーズとじゃことごまを振って、和風チーズトーストなんていうのもありだ。
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【4回表3/5】 |
朝メシをなめるな。ウォーミングアップは朝食からはじまる
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B汁物
汁物は偉大だ。まず水分が取れる。ひとつの鍋ですむ。
汁ごと全部食べられるから汁に溶け出した栄養素まですべて受け取れる。
体を温める。具だくさんにすれば、主菜や副莱分を全部この中に入れることができる。そのうえ、ものによっては主食まで入れ込むこともできる(雑炊など)。
時間がない時は汁物に頼ろう。
C副菜
野菜のおかず。主莱の付け合わせでもいいし、納豆にいろんな具を入れてごはんにかけてもいいし、汁物にいっぱい野菜を入れてもいいし、サンドイッチにしてもいい。
あるいはプチトマトやきゆうりをそのままかじったっていい。
とにかく、一日のはじまりに新鮮な野菜から水分とビタミンをいっぱい取ってほしいのだ。
D果物・乳製品
果物は野菜が十分な時はなくてもいいが、「朝の果物は金」といわれるように、水分、吸収のよい糖質、ビタミン、食物繊維は朝にぴったりの食材。
季節の果物とプレーンのヨーグルト、はちみつを一緒にデザートとして食べる習慣をつけるのもひとつの手。
その中にシリアルを加えてもいい。ヨーグルトに含まれる乳酸菌も腸の状態を整えるのに役立つ。もっと簡単にしたいなら、ヨーグルトをオレンジジュースで割ってドリンクにしてもいいし、また、牛乳の苦手な人はカフェオレ、ミルクティー、抹茶ミルクにすると飲みやすい。
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【4回表4/5】 |
朝メシをなめるな。ウォーミングアップは朝食からはじまる
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朝練で朝が早い時は、上記の基本の朝ごはんを2回に分けて取るようにする。
例えば、「家ではパスタ入り具だくさんスープと果物(糖質中心)。
学校でおにぎりとヨーグルトとオレンジジュース(糖質+タンパク質+クエン酸)」といった具合。
朝ごはんはある程度パターン化していいし、お弁当とバッティングしても構わない。また、足りないものをコンビニで選んで買ってもいい。無理して一度で終わらせようとするとしんどいから、「朝練の日は朝食2回」って考えるといい。
これは朝練を行なう世界のアスリートがごく自然にやっていること。
自分なりの朝食パターンを考えよう。
朝ごはんのトレーニングを今日からはじめよう
このように野球をするうえで朝ごはんがどれだけ食べられるのかは、とても重要な問題だ。
そしてこれもトレーニングなのだ。1回表に書いたようにどんなにこれを食べるといいよ、といったところで、実際に口に入れ、消化し身につける 「食べられる体力」 がなければ無理なのだ。
前の夜、食べすぎていたら朝食をちゃんと食べるのは難しい。また、しっかり目が覚めなければ食事は取れない。朝に食欲がない選手は5分でも10分でも早く起きて、体を軽く動かし、五感を刺激する。布団を上げたり、散歩をしたり、朝食の用意を手伝う。そうすればしっかり目が覚めて、ごはんが食べやすくなるはずだ。起きて水を飲んで、失った水分を取ることは食欲を増すためにも大切だ。
野球選手が、朝ごはんをしっかり食べるためには、生活習慣も見直す必要があることも、忘れずに。
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【4回表5/5】 |
朝メシをなめるな。ウォーミングアップは朝食からはじまる |
選手が水分を必要としているのは練習中ばかりではない。
真面目な心優しいお母さんは、朝ごはんが代わり映えしないことや、お弁当のおかずを朝にも食べさせることに罪悪感を感じているようだが、それで1回の内容が充実しているのならOKだと思う。
で、お母さん白身が作るのに飽きたら、少しずつ変えればいい。選手から要望が出れば、選手にも手伝ってもらえばいい。
毎日お弁当を作っているお母さんは絶対的に偉いのだ。
それは自信を持っていい。だから自分の技量の中でできる朝ごはんとお弁当を考え、いい意味で要領よく、簡単にできるところはうまく手抜きをしてみよう。何より作り続けることが大切。
少しでも作っていて楽しめる朝ごはんとお弁当作りであってほしい。
作り手が楽しめないようなものは、食べてもおいしくないはずだから。
朝食のチェックは入部の時点から厳しく行ないたい。
食べてこない選手に関しては練習に参加させてはいけない。朝ごはんは習慣なので、今まで食べていない子供がいっぱい食べるようになるにはちょっと時間がかかるかもしれないが、何か家から持ってくることも含めて、朝ごはんは必ず食へることを、新入生から選手の体に覚えさせたいのだ。
親が朝起きてくれなくても、その環境に甘えないよう指導してほしい。
メニュー集にもその例を出したが、ごはんが炊いてあって、食材が冷蔵庫にあれば、高校生ともなれば自分で朝ごはんを作ることは十分に可能なのだ。
逆境は選手を強くする。自分で朝ごはんを食べることを覚えた選手は、他の選手以上に食事の大切さに目覚める場合が多い。
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