野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【6回裏】  イザという時も食は味方になる。緊急時に食べるもの

■逆境に強い選手になろう

 アクシデントは誰にでもある。どんな選手も身をもって知っているだろう。
でも、アクシデントのたびに試合や練習に出られなかったりしたら、それこそ「イザという時に役に立たないヤツ」 というらく印を押されかねない。
 問題は対処の仕方だ。手術が必要なケガは別だが、ケガからの復帰やちょっとした体の変調は、薬に頼らずとも食事にできることがある。食事にしかできないことがあるといったほうがいいかもしれない。人間には、本来、自ら治ろうとする自然治癒力が備わっている。その治ろうとする力をサポートするのが食事だ。薬のように副作用もなく、体への負担もなくそれをしてくれるのが食事なのだ。
野球選手が最も遭遇しやすい3つの「イザ!」において、食事で可能な対処法をみていこう。

■ケガをして十分に練習ができない時の食事

 野球に限らず、スポーツにケガはつきものだ。

 この場合、大切なのは、いかに早く治して現場復帰できるかということ。ケガをしてしまった自分を責めたり悔やんだりするのは一瞬だけにしておいて、モチベーションを維持し、ひたすらグラウンドに立つことをめざす。そのための食事テクニックを紹介しょう。

●ケガを治すための栄養素を積極的に取る
 まずは体の基盤の修復だ。

 骨や関節の材料であるタンパク質とカルシウムを、その吸収を高めるビタミンCと一緒にしっかり取ること。さらに新しい細胞を作るために欠かせない亜鉛を意識的に取り入れること。亜鉛はカキをはじめとする貝類、魚、肉、アーモンドやごまに多く含まれている。

●体脂肪をためない食事をする
 そしてスムーズに復帰するための戦略。
 運動量が減っている体は、いつもの勢いで食べると太ってしまう。トレーニングをしていて、筋肉で体重が重くなるのはいいのだけれど、動かないで体脂肪をつけてしまうのはまずい。節肉は体を動かすエンジンだけど、体脂肪は重り。ケガが治って、さあ、これから練習開始っていう時に、余分な体脂肪がついていたらそれが負担となって、せっかく治りかけたケガをぶり返させてしまう結果にもなりかねない。

 だから、ケガをしている時の食事はしっかり管理したい。時間はあるし、動けないストレスから逆にいつもより食べてしまいがちだけど、ここはぐっと我慢して、計画的な食事をしよう。

 その基本は高タンパク、低脂肪。菓子類、夜食は厳禁。甘い飲み物も要注意だ。

 ちょっとしたダイエット食くらいに考えていい。あと、体の動かせるところはしっかり動かすこと。周囲の筋肉を衰えさせてしまっては、ケガの箇所の負担が増え、復帰が遅くなってしまう。同時に、水分はこまめに取って、血の流れをよくして新陳代謝を促すことも大切だ。


野球食Top 6回の裏 1 2 3 4 InningBreak 7回の表

【6回裏2/4】  イザという時も食は味方になる。緊急時に食べるもの

■風邪をひいた時の食事

 野球選手にとって風邪はやっかいだ。チームの誰かがひきはじめると、アッという間にみんなに感染してしまう。こんなところでチームワークがよくても仕方ない。

「あ、まずい、うつったかも」と思った時にはすでに手遅れで、次の朝にはその直撃を受けているのが風邪。特にヤツらは疲れてスキのある体を狙い撃ちにする。冬はもちろん、大事な試合のある夏でも風邪は要注意。しっかり対策を考えよう。

 まずは予防。守備固めだ。日頃からうがいを心がけることと、手洗いの徹底。
特に食べる前には必ずこの2つを忘れずに。小学生じゃないんだからと笑う前に、自分がホントにしっかりそれをできているか考えてみよう。

 それと汗をかいたらこまめに着替える。夏、汗をかいたまま冷房の効いた部屋で寝てしまい、風邪をひくというパターンがとても多い。

 それでも風邪はやってくる。一番肝心なのがひきはじめ対策。そのあとの苦しみを考えれば、大げさなくらいの対策がちょうどいい。ちょっとでもくしやみを連発したり、ティッシュを使う量が増えたら、とにかく温かいものを食べたり飲んだりするようにする。ホットミルク、ココア、うどん、鍋物、煮込み料理。夏でも体を温める唐辛子やしょうが、ねぎなどの香辛料や薬味は、どんどん振りかけたり加えたりするようにする。カレーやキムチもおすすめだ。加湿器代わりに湯気を思いきり吸引するのもいい。

 あとは野菜や果物からビタミンA、Cを中心としたビタミンをいつも以上にいっぱい取ること。
生のものが手に入らなければジュースでもいい。これらのビタミンが不足すると体は一気に弱まってしまう。

 もし、対抗策が遅れて、すでに直撃されて発熱した場合は、まず水分補給。番茶、麦茶など、飲み物をたっぶり飲もう。乾いちゃダメ。風邪菌の思うツボ。スポーツドリンクも、緊急時にはその糖分とミネラル分が大きな助けになる。

 そして温かいものをいっぱい食べて、汗をかいて体温を下げる。
汗をかいたらこまめに着替える。しようが湯、ハニーホットレモネードにも体を温める効果がある。手作りが無理なら、栄養ドリンクをこういう時にこそ利用してみるのもいいだろう。

 ノドが痛い時や咳の止まらない時は、どうしても食べるのがおっくうになる。
その炎症を和らげるため、ノドごしのいいスープや、つるんとしたババロア、ゼリー、果物の缶詰などでノドを冷やし、糖質でノドの炎症をコートしながら、少しでもエネルギーを確保する。

 昔からノドによいといわれている、大根を使ったはちみつ大根や黒豆とその煮汁も強い味方。ふだんは食べないかもしれないけれど、これは日本人の長年の知恵。
おじいちゃんやおばあちゃんはこれで咳に打ち勝ってきたのだ。



【6回裏3/4】  イザという時も食は味方になる。緊急時に食べるもの

■大事な試合の日、おなかが痛くくなったら

 下痢は、当事者の苦しみとは裏腹に周りの笑いを誘いがちなのがタチが悪い。

 下痢には急性と慢性がある。急性では飲みすぎ食べすぎからくる消化不良によるものと食中毒。前者はその状態によるが、軽症だったら2、3日でよくなる一時的なものだが、後者についてはきちんとした治療が必要。お医者さんに直行しなければ。

 慢性で多いのは過敏性大腸症候群。この場合、下痢と便秘を繰り返すことが多く、原因がはっきりしないのが特徴。試合前のようにストレスがかかる時、トイレに駆け込む選手も多いようだ。

 いずれにしてもトイレで飲み食いすることはできないから、トイレからなんとか出てこられたら、薬と一緒に水分を取ることを忘れないように。飲んだらまたすぐ出そうで怖いかもしれないけれど、脱水症状を起こさないようそれでも飲むのが原則。ただし、腸を刺激しないように温かい薄めの番茶などがいいだろう。冷たいものや炭酸飲料は避けること。

 食べ物も冷たいものと繊維の多いものは避ける。ごぼう、たけのこ、豆類、りんご以外の果物、炭酸飲料、アイスクリームは、治るまでやめたほうがいい。
下痢がひどい時には、一日くらい食事を抜いて、消化のよいものから少しずつ食べていく方法もある。

 でも、試合となればそうもいかない。アメやタブレット、冷しすぎないゼリーなどで、様子をみながら少しでもエネルギー補給をしよう。緊急時には下痢止めの出番になるかもしれない。

 やむをえず薬を飲んで下痢が止まっても、帰ってからの食事は消化のよいものを。その小康状態は薬が強制的に止めているだけだ。肉や魚はやわらかく煮たり蒸したりした、脂っこくないメニューを選ぶ。また、消化の悪いたこ、いかや筋の多い肉は下痢を助長する原因になるのでもう少し我慢。

 どんなアクシデントに見舞われようとも、めげちゃいけない。チームメイト全員が、キミの復帰を待っているのだから。



【6回裏4/4】  イザという時も食は味方になる。緊急時に食べるもの

父母へ ■「入院中の差し入れに配慮を」

 ケガをした選手、特に入院となると、親としては不憫に思い、つい、いろいろと食べ物を差し入れしたくなるだろう。でも、選手に早く元気になってもらい、現場復帰して生き生きとした姿を見せてもらいたいなら、基本は病院の食事。

そのうえで足りないものを、差し入れで補うように心がけたい。野菜・果物・ヨーグルトなどはいいだろう。動けない時の見舞いのお菓子は体脂防のもと。運動どころか、体を動かすことさえままならないうえ、他にやることがないから自然とお菓子に手が伸びる。

食べた分は、見事に脂肪増加に直結するだろう。少しはいいが、残りは目の毒にならないうちに持って帰ってあげよう。選手の復帰のためのトレーニングは、ここからすでにはじまっている。


指導者へ ■「胃を丈夫にする食事」

 日頃のストレスが胃にくるという指導者が多い。

選手にあたる前に、日頃から胃を丈夫にするための食事を心がけよう。消化を助けてくれる酵素が入っている、大根おろしと山芋。大根の葉っぱがあればジュースにして飲むのも効果的。

また、キャベツに含まれるビタミン∪は胃酸の分泌を抑え、胃腸粘膜の新陳代謝を活発にする。これにより胃潰瘍や十二指腸潰瘍を治療あるいは予防する。さらには胃痛だけでなく食欲不振、吐き気、解毒にも効果あり。ビタミン∪の別名がキャベジンと聞けばピンとくるのでは?

また、最近では、高校生でもストレスという言葉を平気で使うので、キャプテンを任せている選手が悩んでいるようなら教えてあげてほしい。「おまえしかいない」という言葉とともに。



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