野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
Inning Break1  「いっぱい」の量は決めつけるのではなく、作り上げていくのだ。

 京都に定期的に出向いている高校ラグビーチームがある。最初に監督に会った時、「とにかくうちんとこの選手は細いんですわ、強い相手にぶつかると飛ばされよるんです」 と眉間にしわを寄せて訴えてきたのが印象的だった。

 そうはいってもラグビー選手だ。それなりのガタイはあるだろうと思って初めて選手たちを見た時、監督の眉間のしわの意味が改めて理解できた気がした。
みんなとってもかっこいいのだ、スラーっとしていて。「こいつら、ジャニーズに入れたくなりません?」 といった監督の言葉に思わずうなずいてしまった。

 足の速さには定評のあるこのチーム、7人制では京都一の実績を持つ。でもスクラムを組む15人制では体重と力の差が歴然。押されて飛ばされて強豪に太刀打ちできないのが現状だった。

 この現状は、実際宿敵に押され、飛ばされている選手自身、一番痛感していることが、最初のセミナーの目つきでわかった。はっきりいって、こんな切羽詰まった真剣な目つきを、野球部の選手では今まで見たことがない。

「とにかく、
何がなんでもデカくなりたい」 という思いの強さは、野球選手の比ではないということだろう。

 その日から彼らの 「食べるトレーニング」 がはじまった。彼らは可能な限り食べた。野球選手には一食あたり500gのごはんを食べられる体力をつけようと紹介しているけど、このチームには一食750gのごはんを基準にした。
もちろん、最初からそんなに食べられる選手は少ない。

 トレーニングのため、お弁当の他に持ってくるおにぎりの量を少しずつ増やしていき、1カ月後には10個のおにぎりを毎日持参している選手もいた。監督室には電子レンジが置かれ、消化を助けるため弁当を温めたり、汁物を作る選手が絶えず利用していた。

特に、この年のキャプテンは自らが一番積極的に取り組み、その結果、見る見るうちに体つきに変化が現れた。これは、チームメイトや後輩の大きな刺激となった。

彼の家を訪れた監督によると「あいつの食う量、半端じゃないですわ。ごはんは丼に4、5杯、しかもそれだけの量を、うまそうにペロッと食いよる。見ていて気持ちよかったです」。

もちろん彼も最初からこんなに食べられたわけではない。でも、自分の運動量プラス増量分を真剣に考えた時から毎日少しずつ食べる量を増やして、食べる体力を養った。

そして、必要量が体でわかり、楽に食べられる体力がついてきた時、体つきの変化をはっきり自覚したという。

彼は最終戦までに約8kgの体重を体脂肪率を落としながら増量した。8kgのヨロイを自分の体で作り上げ、8kg以上の自信も身につけて最後の大会、宿敵との決勝戦にのぞんだ。

彼のように「体をデカくしたい」と真剣に思っている野球選手は多い。同時に「いっぱい食べているのにデカくならない」と思っている選手も多い。キャプテンの食事を目の当たりにしていたこのラグビー部の選手たちは「いっぱい食べてもデカくならない」とはいってこない。

「もっといっぱい食べようと思うけど、まだそれだけの体力がない」といってくる選手が多いのだ。

 この「いっぱい」って量をもう一度冷静に見直してみる必要があると思うのだ。自分が考えている「いっぱい」の量が、本当に今の自分にとって「いっぱい」なのかな? どこかに偏っていたり、スキができていたり、体力のないことに甘えていたりしてないかな?

 高校時代は大人への過渡期だ。体のキャパシティーに柔軟性がある。食べる努力に体は応えてくれる。急にじゃなくていい。少しずつでいい。食べられる体を作り上げて、チームメイトや監督や親を驚かせよう。プレーボールはそれからだ。


そして、勝つ! Laurel


野球食Top InningBreak 1 2 3 4 5 6 7 8 9 >>2回表

Copyright(C) Laurel All rights reserved