[1回表1/4] ウェイトトレーニングでは筋肉は作れない
筋肉をつけるために、きっとみんな一生懸命ウェイトトレーニングをしていると思う。
酷なようだけど、ウェイトトレーニングをいくらやっても筋肉は作れない。
どんなに優れたトレーニングプログラムでも無理。
こういうことをいうと、たいてい 「え?」 って驚かれるけれど、驚いた選手は冷静になって考えてほしい。
例えば、家を建てる時のことを考えてみよう。
有名な設計者、腕のいい大工、そして最新の道具を揃えても家は建たない。
そう、材料がいる。木やセメントやレンガが家になるのだ。
筋肉も同じこと、いくらトレーニングに気を配っても、材料が入ってこないと筋肉はできない。
筋肉は生み出すのではなく、取り入れたものを鍛えて作り上げるのだ。
よくトレーニング直後のパンプアップした筋肉の状態を「筋肉量が増えた」と勘違いしている選手がいるけれど、
これは筋肉に血液が集まって一時的に腫れているだけ、筋肉が大きくなったわけではない。
見とれていないで早くストレッチしよう。
本当に筋肉が作られるのはここからだ。
筋肉に入れた材料が、トレーニングという刺激を受けて新たな筋肉になる。
つまり「食べなきゃ筋肉は作れない」のだ。
ちょっと考えてみれば当たり前のこと。
でも、その当たり前ができていない野球選手がとても多いのだ。
選手は、食べることを食欲を満たすためだけと考えていてはいけない。
ノックと同じように、素振りと同じように、野球がうまくなるための一番の基本であると考えてほしい。
[1回表2/4] 食べられるのも体力なのだ
「だったら何を食べたらいい?」 ってことになるけれど、その前にもうひとつ、気がついてほしいことがある。
食べるためにも体力がいる、ということ
特に夏場など、そんなに熱いものを食べなくても汗をかいたり、体が火照ってきたりすることは知っているだろう。食べ物が入ってくるということはそれぐらい体を刺激しているのだ。
「食べるのにそんなに体力がいるの?」と疑った選手は思い返してみてほしい。
例えば、練習から家に帰って、おなかはすいているはずなのに疲れて食べられない経験、ないだろうか?
疲れきった体は食べることさえできなくなる。
「いくら食べても太れない」 って感じている選手も多いだろう。
この多くは内臓が食べ物を十分に受けつけられない状態が原因。
きちんと消化し、必要なものを吸収できないのだ。
これではいくら食べても食べ物は、ただ体を通過するだけ。
何のために食べているのかわからない。
例えば「試合の前は食べられない」選手。
試合中のエネルギーを考えれば食べたほうがいいのはわかっていても、体が食べ物を受け入れる力がない。
このように、しっかり食べられるのも体力なのだ。
打力や守備力、走力、そしてスピードボールやキレのいい変化球を投げるための力の基礎となる、野球をするための実力のひとつなのだ。
野球選手の体作りは、まず「食べられる体力」をつけるところからはじめよう。
新入部員たちも、新しいグラブの品定めをする前に、自分に 「食べられる体力」があるかを必ずチェックしよう。
中学から高校に上がってきた選手で、この体力がある選手はほとんどいないと思っていい。
ただし、一番の成長期だけに食べる体力をつけやすい時期である
このまま高校の練習に参加するのは無茶というもの。
では 「食べられる体力」をどうやって作るか? ポイントは「貪欲に消化吸収できる体にする」こと。
そのためのトレーニング方法を紹介しよう。
「食べられる体力」がしっかりつけば、どんな時でもしっかり食べられ、イザという時、少々無茶な食べ方をしたって大丈夫な、タフな体になることができる。
[1回表3/4] 「食べられる体力」をつけるトレーニング法
●トレーニングその1…「よくかむこと」
消化は食べ物が口に入った瞬間からはじまっている。
歯で砕き、唾液、つまりツバで分解している。かめば、消化を助けることができる。
よく、いっぱい食べようとして早喰いになり、ほとんどかまずにのみ込んでいるような食べ方をする選手がいるけれど、これでは、口の中での消化ができない分、消化に時間がかかる。
内臓の負担にもなる。
内臓が疲れていれば消化不良を起こしやすくなる。
どんなにいっぱい食べても、体を通過するだけではダメなのだ。
野球をするために一番基本であり、一番大切である自分の体を作るために必要不可欠な食べ物、素通りさせるだけじゃあまりにももったいない。
食べたものを効率よく体のためになるように消化吸収するために、毎食、一口ごとにしっかり
かむことを意識しょう
一流のプロ野球選手の中には、奥歯がボロボロになっている選手もいる。打つ瞬間に、とても強い力で歯をかみしめているからだ。噛む力がなければ、強い打球は打てない。
●トレーニングその2…「水分補給をこまめに」
水分の重要性については3回表に書いているけど、水分の取り方を間違えると、食事は取りにくくなる。
水は食べ物と一心同体、つまりチームメイトみたいなものなのだ。
例えば、夏の練習前や練習中にしっかり水分を取らなくて、練習後にはノドが乾ききり、いくら水を飲んでももっと水分が欲しくて、固形の食べ物が思うように食べられない経験はないだろうか?
他の競技に比べて天候が関係し、技術の習得とチームプレーのために、野球はどうしても炎天下の屋外での練習時間が長くなりやすい。
この間に水分がうまく取れなくて、食べられなくなってしまったり、おなかを冷やして消化不良を起こす選手がとても多いのだ。
試合と同じで先手必勝。水はノドが乾く前にこまめに少しずつ飲もう。
●トレーニングその3…「姿勢を正し、腹筋を鍛える」
犬や猫にバットやグラブは持てない。
野球ができるのは、人間が2本足で立って生活ができてこその技だ。
でも、立っている状態というのは内臓が引力に対して垂直になる。犬や猫のような4本足動物に比べ内臓が高い位置にあるので、下に引っ張られる度合いが強い。だから、体幹部、特に腹筋が弱くなると、内臓は下に垂れやすく消化吸収能力が悪くなるのだ。
胃下垂というのを聞いたことがあるだろう。胃が垂れ下がった状態になることだ。
胸が狭く平らで、筋肉・骨格の発育が悪い体質の人がなりやすいので、腹筋を鍛えることは大切なのだ。
野球選手は、カッコだけではなく食べるためにも腹筋を鍛えよう、その第一歩が姿勢。
最近の高校野球選手を見ていて気になるのは、座っている時や歩いている時、すでに体全体が引力に負けちゃっているような姿勢の悪さ。腹筋が弱れば姿勢も崩れる。
いくら「腹筋は1日100回やってます」といってきても、「その運動、本当に腹筋に効いてるの?」って聞きたくなる姿勢の選手も多いのだ。
コンビニの前でヤンキー座りしながらカップラーメンをかき込むのは、スポーツの楽しさや、自分を鍛える喜びを知らない連中に任せておこう。
姿勢を正し、リアルに効く腹筋運動を毎日やることは、食べられる体を作るトレーニングでもあることを忘れずに。腹を決めよう。姿勢を正し、そしてしっかりと腹筋を鍛えよう。
雑な腹筋運動は、逆に腰を痛めることにもなりかねない。
「リアル・シットアップ」という言葉もあるので、自分の腹筋運動が「リアル」かどうか一度きちんと見直してみよう。
●トレーニングその4 「朝型の食べ方をする」
プロじゃない限り、通常、野球の試合は日中に行なわれる。
ということは、そのエネルギー源は午前中にしっかり取る必要がある。
朝からしっかりごはんを食べられるだろうか? ちゃんとおなかがすいて起きる生活習慣が身についているだろうか? 「朝が一番食欲旺盛」 が最も望ましいのだ。
朝しっかり食べると、胃も、いわゆる「胃が大きくなる」状態になり、その後も一日、必要な量のごはんをちゃんと食べることができる。
なにかと夜まで食べ物が手に入りやすい世の中。でも、夜中までだらだら食べていては、内臓に負担をかけ、熟睡できないことになる。
日中たくさん食べて酷使した内臓を、夜はおなかをすかせてしっかり休ませるのも大切なトレーニングのひとつだ。朝、思うように食べられない選手は、夜に食べているものを見直そう。
夜中の食べすぎは筋肉にはならない。脂肪になるか、内臓を傷つけるだけの結果に終わる。
朝ごはんがいっぱい食べられる体力をつけよう。
[1回表4/4(父母へ)] 親子でストレッチと腹筋のススメ
●「腹筋の低下で老化する」のは選手ばかりじやない。
加齢という面では大先輩である親の世代にはもっと切実な問題。
「子は親の背中を見て育つ」。
親が選手の姿勢や行動を気にしているのと同じように、子である選手も父や母の姿勢、そして腹の形もしっかり見ている。
腹のゆるみや姿勢の悪さ、年齢のせいにしてあきらめていないだろうか?
まだまだ親世代だって間に合う。
選手と一緒に腹筋運動をしてみよう。これは腰痛の防止にも効果絶大。
いつも教えられてばかりの選手も、親に腹筋運動のやり方を教えるとなれば俄然張りきるに違いない。
それに、腰が痛ければ、台所でおいしい食事も作れない。
選手の「食べる体力」のためには、親の「作る体力」が必要不可欠なのだから。
[1回表4/4(指導者へ)] 栄養と栄養素の違い
●「栄養」の話というと、「食べ物」の話と思っている指導者が多いようだ。
「食べ物」=「食事」=「料理」=「母親」ということで、選手の母親にとって負担になることがある。
私へのセミナー依頼も、「選手抜きで母親だけにお願いします」というのも少なくない。
何回かの指導の中にはそれも必要だが、まずその前に大切なのは選手の自覚。
「栄養」とは食べ物を受け取った「体の営み」のこと。食べ物にはいろいろな「栄養素」が含まれているが、それを消化吸収し「栄養」にしていくのは選手自身の体なのだ。
どんなにいい食事を母親が目の前に出し続けても、食べる選手にその意識と体力がなければ何にもならないということを、選手とともに指導者にも一番最初に理解してほしい。
|