野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【2回表1/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

■「プロ野球選手だから、いっぱい食べてる」って勘違いしてない?

「あるプロ野球選手はね、朝起きて、さんまの干物を頭から骨ごと2尾と丼ごはんをまず食べて、それからみんなと一緒に朝ごはんを食べるんだって」

 選手にこの話をすると、たいていは 「やっぱりデカイ選手はいっぱい食べるんだ。プロってすごいなぁ!」 というだけで片づけられてしまう。

 確かに大きいプロ選手は、その体を動かし維持するため一般の人よりもたくさんの栄養素が必要だ。でも彼らに話を聞くと、彼らが一番たくさん食べた時期は、体がすでにできあがっている今じゃない。

彼らの食べ盛りは中学、高校の時。その頃、彼らは今よりもっといっぱい食べていたのだ。

強くなりたい一心で。

いっぱい練習したからおなかがすいて。

成人し、体ができあがっているプロ野球選手とは違って、成長期にある球児は「毎日の練習分のエネルギー+勉強で頭を使うエネルギー+使った体を補充する材料+体の成長分」の栄養素が必要だ。 そう、ある意味、プロ選手よりもいろいろな栄養を取らなきやいけないのだ。


プロ選手の年代になれば、さすがにもう身長は伸びないが、中・高校生は今まさに伸び盛りである。この体の成長は今しかフォローアップできない。だから、ジュニア選手の食事はシビアに考えるべきなのだ。


だから、「今よりデカイ選手になりたい」って思ってるのなら、プロ選手の食事を他人事のように感心している場合じゃない。今の自分の体は、プロ以上にいっぱい栄養素を必要としている、ということを自覚しょう。



【2回表2/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

■ デカイ選手になりたかったら、まず最低限これを食べよう

 では、実際、どれくらいの量が必要なのか?

 厳密にいえば、その選手の体の大きさや年齢によって違ってくるけれど、「今よりデカイ選手になりたい」なら、33ページ表※にある食事量は最低限確保したい。


高校野球選手の
一日にとりたい
食品とその分量


16歳・男子
170cm、65kgを平均として

「野球食」33ページ掲載表


 他のスポーツ栄養に関する本では、一日あたりのエネルギー量を3500kcal(キロカロリ)を基準にしていることが多いけれど、毎日練習している高校野球選手はこれでは足りない。
やせ細ることはないだろうが、デカイ選手にはなれない。
個人差はあるけれど、練習のある日のエネルギー量は一日4500kcalを基準にしたい。

これは、学校で机を並べている帰宅部の友人の約1・7倍だ。
驚いちゃいけない。ひるんじゃいけない。

だって、授業が終わったらすぐに家に帰って部屋の中でテレビゲームしている友人と、大汗かいて全身を動かしている選手たちとでは、これくらい違って当たり前。

 それに食べるってことは習慣だから、基準や目標を決めて食べていないと、特に夏場なんかすぐに食が細くなってスタミナがなくなってしまう。

これだけの量を食べられる自分の体力を実感しながら、それに自信を持ちながら、がんばって食べよう。
そして、どうしても食べられない時や、食べられない選手は、この基準から少しずつ減らしてみればいい。

表は、練習していない日と1日4時間練習(朝練・個人練習を含む)をする時の、1日に何をどれだけ食べるかを表したもの。その具体的な献立例については巻末のメニュー集を参考にするとして、野球選手には 「食べなきやいけない」ものがこれだけあることをまず頭にたたき込もう。

ここでは、含まれる栄養素の特性に合わせて3つのグループに分けた。



【2回表3/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

■ グループ1 「材料」としてこれだけ食べる

 まずはじめに、1回裏で説明した「プロティン」。
覚えてるよね。成長に欠かせない体の材料であるタンパク質だ。

それと各種ミネラルを多く含む食品群。
肉・魚・卵・乳製品がこのグループに入る。このラインアップはおかずのメインになることが多いだろう。

取り方のポイントは以下の通り。
●好きなのはわかるけど、肉類に偏らないように。魚・豆・卵・乳製品、それぞれの特性を生かすよう、いろいろ食べること。

●1日3食に分けて取る。一度のドカ食いは内臓に負担がかかるうえ、脂肪になりやすく、筋肉にはなりにくい。

●一緒についてくる脂肪の取りすぎに注意。自然のタンパク質を多く含む食品は同時に脂肪を多く含む傾向にある。特に体脂肪を気にしている選手は要注意。



【2回表4/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

■ グループ2 「ガソリン」としてこれだけ食べる

 次にエネルギー源。

糖質と脂肪を多く含む、ごはん・パン・芋・餅・油脂類のグループ。主食のメンツだ。
糖質のためといっても砂糖から取るのではない。

このグループに多く含まれるでんぶん質から糖質を取るのだ。

取り方のポイントは以下の通り。
●ごはん(米)をしっかり食べること。一食の目安量は丼に2杯弱(500g)。
これを朝から食べられる体力を作る。

●ごはんの他、甘くないパンや麺、餅などのでんぶん質中心に、なるべく油ものや甘いものに偏らないようにすること。

●芋はでんぷん質の他、ビタミンCや食物繊維もしっかり取れる。おやつとしても利用しょう。

●しっかりエネルギーにするためにビタミンB群を一緒にしっかり取る。

●そのために、ごはん(米)を玄米や胚芽米など完全に精白していないものを使ったり、強化米を入れたりするのも有効。特にエネルギーを消耗し、 疲れやすい夏にはおすすめ。

米は日本人が毎日食べる、まさに主食であるだけにちょっとしたアレンジも無視できない効果を生むだろう。



【2回表5/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

■ グループ3 「エンジンオイル」としてこれだけ食べる

 そして、体の調整役、車で例えるならエンジンオイルの役割である3つめのグループ。

野菜・きのこ・海藻・果物類。これらはエネルギー源としてはカロリーが少ないが、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、体のコンディションを整えてくれるために必要な栄養素をたくさん持っているグループだ。

 野菜の1日に取るべき目安は約300〜400g。これに果物100gときのこ・海藻で約50g。
ピンとこないかもしれないが、実際並べてみるとかなりの量だ。

 アメリカのあるハイスクールでは「肉を食べたらその倍の野菜を食べなさい」と指導しているという。アメリカ人が1日に食べている肉の量の平均は400gくらい。その倍となるとなんと800g!

まあ、これは、海藻やきのこ、そして穀類も入れた量だと思うが、「肉をなるべく少なくして、その分、野菜や穀類を増やそう」 ということだろう。

 日本の野球選手の中にも、野菜が苦手な選手は多い。
だが、意外に完全に食べられない野菜は少なく、なんとなく面倒くさいから、食べにくいから、ということで残してしまっている選手をよく見かける。

 野菜は、400g食べなきや足りないのだ。食べられる野菜は手当たり次第に残さず食べよう。
あのイチローだって、アメリカに行ってから野菜嫌いを克服したそうではないか。
かぼちゃやトマトやピーマンから逃げていては戦えない。

食べ方のポイントは以下の通り。

●とにかく皿にのっている野菜は残さず食べる。

●少なくとも自分が食べられる野菜はとにかく多めに食べる。

●プチトマトやかぼちゃ、とうもろこし、枝豆などは果物同様、おやつとして活用する。

●海操・きのこは毎日一回は食べるように、メニューを作る時や選ぶ時に意識する。

 好きなものだけ食べていたり、出されたものを疑いもなくただ口にしているだけでは、今よりデカイ選手にはなれない。

自分の現状に必要な食べ物は何なのか?
いつ、どのくらい食べればいいのか? を毎日自分で考え、食べて、頭と体に覚え込ませていくのも大事なトレーニング。

しっかり食べてデカくなろう。



【2回表6/6】  メシが握れない選手はボールを握るな!野球選手の食事の基本

父母へ ■ 「特別高価な食材は必要なし」

 野球選手の体を作るためには、たくさんの食べ物が必要だ。それだけでもお金がかかる。
そのうえ食材まで高価なものにするとなると大変。

選手の食事の基本も健康食。安全性は気にしてほしいが、特別に高価な食材を使う必要はない。
もちろん、たまにはごちそうもいいが、ふだんは普通の家庭科理の組み合わせで十分。
高い食材よりも、旬を意識した、季節の安くておいしい素材を使った料理をジャンジャン作ってほしい。

また、価格の安定した冷凍の野菜や缶詰もおすすめ。旬の時期に大量に加工した野菜や魚介類は、意外に栄養価が高い。野菜の高い時期や、イザという時のために、セールの際にはまとめ買いしておくと便利だ。


指導者へ ■ 「食べる時間の確保を」

 選手に十分な量の食事を取るためには時間がかかる。またそれを消化し吸収するためにも時間がかかる。

中には、いっぱい食へる時間がない、いっぱい食べると動けなくなる、いっぱい食べると気持ち悪くなるという理由で、練習中の食事を制限している選手もいる。
試合などではそれも仕方ない時はある。

またよくかむこと、小分けにして食べることなど、消化を助ける食ペ方を身につけることも大切だが、まだこれだけの食べ物を食ペる体力が不足する選手には、食べる時間をしっかりとることが必要になる。

なかなか昼食の時間を長くとれない事情もわかるが、食べなければ、練習をすればするほど、選手はやせ細っていく。エネルギー切れを起こせば、練習にも集中できない。野球には「食休み」も大切なトレーニングであることを忘れずに。



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