野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【7回表】  じいちやん、ぱあちやんの知恵。伝統食を野球に生かす

■巨人軍桑田投手の自主トレメニュー

 いつだったか、読売ジャイアンツ桑田真澄投手の自主トレの様子がテレビで紹介されていた。自主トレ期間中の桑田投手の食事は、毎食
ま・ご・わ(は)・や・さ・し・い」 を揃えるように考え、料理も自分がしているとのこと。

 この 「ま・ご・わ・や・さ・し・い」 って、どこかで聞いたことあるだろうか? もしかしたら、お母さんにはテレビの健康番組などでおなじみかもしれないけれど、野球選手にとってはあまり一般的ではないだろう。

 実はこれ、食べ物の頭文字。「ま」は豆、「ご」はごま、「わ」はわかめで、海藻全般をさす。
「や」 は野菜、「さ」は魚、「し」 はしいたけなどのきのこ類、「い」 は芋。

 これらは現在 「健康食」 といわれている代表的なものなのだ。栄養学的にみても、ここにごはんなどの主食が入れば、食事のオールスターだ。

自分のコンディショニングにおいて球界屈指といわれる桑田投手のこの食事法。
プロ野球選手も人間。まずは、健康を維持する基本をおこたるようでは先がない、ということなのだろう。

 健康食といっても、高価なものや貴重な食材ではない。本来、これらはみんなのおじいちゃんおばあちゃん世代には当たり前だった日本の伝統的食材。

でも、選手のみんなにとっては、遠い存在になってはいないだろうか?



【7回表2/4】  じいちやん、ぱあちやんの知恵。伝統食を野球に生かす

■高校野球選手のウイークポイント

 毎年全国100人以上の高校球児の食事調査をしていて感じるのが、高校球児たちの毎食のおかずは圧倒的に肉類中心であること (これは 「おごってもらうとしたら何がいい?」 の問いにも 「焼き肉」 って答えがダントツなことでもわかる)。

 そして、野菜はサラダが多い。サラダはかさが多くなる分、野菜を取った気分にはなるけど、実は量も種類も取れていないことが多いのだ。食事調査で 「ま・ご・わ・や・さ・し・い」 の食材が登場してくることは極めて少ない。「ま・ご・に・わ・や・さ・し・い」 と 「に (肉)も入れてよ」 というならわからないでもないけど、他のすべてが足りないのだ。そしてこの傾向に地方性はない。全国各地、はとんど同じ。これって、不思議なことなのだ。

 南と北でもそうだし、山間部と海辺でも食べるものは違って当たり前。山ではきのこ。
海では魚。魚も、海ではなくて山のほうだったらアユやニジマスなどの川魚になるし、池がたくさんある地域ではコイにもなる。そして、畑では野菜や豆。南北に長い日本には、その土地土地でとれる食べ物がある。地元でとれた新鮮な食材は、栄養価もバッグンに高い。「FOOD(フード)=風土」というくらい、その土地で育つ人の体は、その土地で育ったものを食べ、共存して健康は保たれる。これが原則だった。だから、従来はその地方によって食べているものに特徴が出ているのが当たり前だったのだ。

 それが今はなくなりつつある。流通経路が整備され、日本各地の、それどころか世界各地の食べ物が近くのスーパーに並び、チェーン店のファーストフードやファミリーレストランが日本全国に点在する。海沿いで育っているからって魚を食べなくても生活できる。きっと、地元の食材を意識することなど、ほとんどないって選手が多いと思う。

 でも、だからこそ、何を選ぶのか? を自分で決めなくちゃいけない。健康を保ち、野球選手としての体を作るために。

 健康なんて、当たり前すぎてあまり意識したことがないかもしれないけど、健康という土台がないと野球選手の体は作れない。競技力も絶対伸びない。たとえ技術を習得しても体力がなければ維持できないのだ。

 そして、この「ま・ご・わ・や・さ・し・い」をはじめとした「伝統的健康食」といわれている食べ物には、肉では補えない、野球をするために必要でありながら今、不足している栄養素がたくさん含まれている。

 肉が悪いわけじゃない。肉ばっかりなのが野球選手のウイークポイントなのだ。
ならば足りないものを意識して食べればいい。

 健康食は、おじいちやんおばあちゃんの長寿のためだけにあるものじゃない。
野球選手にとっても大切なものなのだ。選手としての寿命を延ばすためにも大切なものなのだ。
 この野球選手のウイークポイントに気がつき、実践したのが、桑田選手なのだろう。



【7回表3/4】  じいちやん、ぱあちやんの知恵。伝統食を野球に生かす

■球児の健康を保つ食材はこれだ!

 では、高校球児に今、足りない食材は何か?
 食事調査の結果から、6つのグループに分けてラインアップしてみる。

@魚(背の青い魚・小魚を中心に)
 肉も魚も動物の肉。違いは何か? 牛や豚は一度に一頭丸ごと食べられないけど、小さめの魚は一尾すべて食べられる。ひとつの生命体すべてを食べることができる。これにより、いろいろな栄養素が効率よく取れるのだ。

A乾物(切り干し大根・ひじき・寒天・わかめ・干ししいたけ・高野豆腐など)
 日本の伝統的保存食。干すことで栄養価は擬縮される。各種ミネラル、食物繊維の宝庫。おかずで出ていても見ないふりをしていた選手は大損。人の分を取ってでも食べたい食材。

B青菜(小松莱・ほうれん草・春菊・モロヘイヤ・パセリ・チンゲン莱など)
 牛は草だけであれだけの体を作る。それだけでも青菜の実力がわかるだろう。
皿に付け合わせで青菜がのっていても、単なる飾りだと思って避けていないだろうか。

C豆(大豆・納豆・さやいんげん・えんどう・枝豆・いんげんなど)
 昔も今も、豆は日本人の大切なタンパク質源だ。一緒にビタミンB群、鉄分、カルシウム、マグネシウム、食物繊維を豊富に取れるのも特長。

D根菜類(にんじん・玉ねぎ・じやが芋・れんこん・里芋・ごぽうなど)
 根菜類は土の中で育っているだけあって、一見地味だし野暮ったい。青菜やトマトのような派手さがない。野菜とさえ認識していない選手もいるんじゃないかな。でもその分、隠れた栄養素をいっぱい持っているのだ。
例えば、大根おろしは消化を助ける酵素を持っているし、玉ねぎはビタミンBの吸収を助ける酵素を持っている。芋に含まれるビタミンCは熟に強い。ずっしり重い根菜類にはその分の効用が含まれている。よくかみしめてその恩恵にあずかろう。

E発酵食品(納豆・∃−クルト・味噌・キムチ・チーズ・ぬか漬けなど)
 発酵させるということは、乳酸菌を増やすだけではなく、素材にプラスアルファのおまけをいろいろもたらす。素材だけでは得られなかった栄養素が生まれたり、素材だけでは考えられないほど、持定の栄養素を多くしたりするのだ。
 菌の力はすごい。キムチやヨーグルトもそれぞれの国の大事な伝統食。この他にも各地にはそれぞれの発酵食品がパワーのある伝統食として伝わっている。
いろいろ食べて、よい菌を味方につけて体力を強化しょう。

 これら伝統食は、忘れかけていた体の機能を向上させてくれる、先祖からの贈り物だ。

 忘れかけているものや今まで意識していなかったものがあれば、ぜひ積極的に食べてほしい。これらのほとんどはよくかんで食べるもの。慣れるまではちょっと違和感があるかもしれないが、よくかみしめていって慣れてくると、きっと新しいおいしさを発見することになるだろう。

 本当なら、「ま・ご・わ・や・さ・し・い」 ではなく 「おばあちゃんは優しい」 とさえいいたいようなありがたい食の知恵。この知恵をしっかり受け継ぎ、野球で活躍する孫の姿をおじいちゃんおばあちゃんに見せて 「うちの孫は優しい」 といってもらえるようになろう。



【7回表4/4】  じいちやん、ぱあちやんの知恵。伝統食を野球に生かす

父母へ ■「乾物頬はしまっちゃダメ」

 乾燥わかめ、切り干し大根、干ししいたけ、ごま、青のり、かつお節…買って使いきれないと、つい戸棚や引き出しにしまってそのまま忘れてしまうことないだろうか?乾物を効率よく使うコツは、しまわず目に見えるところに置くこと。

カットわかめやごま、青のり、かつお節などは乾燥剤と一緒に空きビンに入れて食卓に置いておき、いろいろなものにトツピングする習慣をつけると、料理がパワーアップする。
高野豆腐は残ったらフードカッターですり下ろしておくと便利。そのままだったら揚げ物の衣に。一度湯にもどしてよく水気を切ったものをひき肉料理に混ぜる。特に鶏ひき肉との相性がいいから、つくねや鶏そぼろを作る時におすすめ。カルシウムと食物繊維の強化になる。

指導者へ ■「まずは自分の食生活を見直そう」

 桑田選手に学ぶべきは選手ばかりではない。
仕事と部活の両立で疲れとストレスをためがちな指導者にもぜひおすすめしたい食材ばかり。

最近、指導者の年齢も若くなり、これら日本の伝統的食材を知らない人も多くなった。
切り干し大根とかんぴょうを勘違いしていたある指導者と大笑いしたことがあるくらいで、選手にすすめるにも指導者がその食材を知らないと難しい。

それで料理を作れとはいわない。例えば、打ち合わせで寄った居酒屋で、ちょっと見かけない食材を目にしたら店の人に尋ねてみるといい。「ああ、これが。名前だけは聞いたことあったけど」なんていう食材にいろいろ出会うことができるはず。食事に自信のない指導者も、こんなところから自分の食事を見直してみたらどうだろう?



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