野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
【8回裏1/4】  好き嫌いこそ最大の敵。攻略法を教えよう

■好き嫌いは野球選手の体にスキを作る

 野球選手のために食事の強化をする時、最大のネックとなるのが好き嫌いだ。

 世の中にはいろんな食べ物がある。中には自分には合わないものがひとつやふたつあっても不思議じゃない。でも、体作りに好き嫌いはやっぱり弱点となる。体にスキを作るのだ。好き嫌いが多ければ多いほど体はスキを作りやすい。

 ある食材ひとつを嫌いなだけで、その食材を使った料理のバリエーション全体が食べられないことになる。嫌いな食材が増えるほど、その何倍、いや何十倍ものメニューが食卓にのっても食べられないことになるのだ。

 逆をいえば、何でも食べられる選手は、それだけでひとつの素質を持っていることになる。こういう選手はイザという時に強い。

 野球選手の体を作るうえで、好き嫌いはどうしても見逃せない。ならばその攻略法を考えよう。

 まず、自分が苦手としている食べ物を本当に食べられないものと、なんとなく食べにくいものに分けてみる。
「食べようと思えば食べられる」ものは、今日をきっかけに積極的に食べてみること。何度か食べて慣れ親しむと、その食べ物への誤解に気づくはず。そして好きになってくるはずだ。「なんとなく…」は甘え。逃げずに積極的に食べるのがコツ。

 問題は、本当に嫌いなものだ。どうしても食べられないもの。

 まず、アレルギーがあるものは別。これは食べると命にも関わりかねないことだからここからは除く。ここでは食べても体は大丈夫だけど、自分の好みにどうしても合わない食べ物をどうするかについて考えてみたい。



【8回裏2/4】  好き嫌いこそ最大の敵。攻略法を教えよう

■味覚の成長を忘れていない?

 思い出してほしいのは、いつからそれを食べていないか? と、食べなくなったきっかけが伺だったか? ということ。

 よくあるのが、幼い時に食べられないと決めつけて以来、口にしてないというケース。そういうものがある選手に聞くと、十数年食べていないはずなのに、その嫌な味だけは忘れられないらしく、妙にリアルにその食感を語ってくれる。

 でも、体が成長したのと同じように、ここ数年で打力や投球術が成長したのと同じように、味覚も成長していることを忘れちゃいけない。子供の頃にはわからなかったおいしさが、今なら理解できる可能性は大なのだ。だって、赤ちゃんが食べている離乳食、今食べようとは思わないだろう。それと同じことなのだ。

 それに、野菜などは味が改良されているものもある。小学校の時に嫌いだった女の子が、今になって会ってみたらすごくきれいになっているようなものだ。
だから、自分の味覚の成長を信じて、嫌いだと思い込んでいた食べ物にリベンジしてみない? きっと新しい発見があるはず。

 ただし、どうせだったら、とっても素敵な再会にしたいから、作戦は必要。
そのテクニックを食品別に紹介してみよう。


■これに負けては試合にも勝てない!食品別攻略法

 これだけたくさん食べ物があると、好き嫌いも千差万別。特に高校野球選手からよく聞く嫌いなものを並べてみる。

●ピーマン
 今も昔も子供の嫌いなものNO・1らしいピーマン。嫌なのはその苦みらしい。だからまず、苦みのないカラーピーマン (パプリカ)あたりから食べてみる。これらにはほとんど苦みがない。
さまざまな色のものが出回っているけれど、特におすすめなのは黄色の肉厚なパプリカ。
これはフルーツといっていいほどクセかなく、食感もいい。かじってもいいし、サラダに生で入れて食べてもいい。その次に黄色やオレンジのパプリカ、それから肉薄の赤ピーマン、そしていよいよ緑のピーマンと段階を追っていくと、違いもわかって楽しみながら食べられるようになると思う。

 唐辛子もピーマンの仲間。「ピーマン=緑で苦い」と決めてしまわずに、いろんなものを試してみて、どこまで自分の許容範囲か確かめてみるのもいい。
 また、緑のピーマンを食べやすくするのは、ピザやピザトーストの上にのせて、ちょっと焦がしてチーズと一緒に食べる食べ方。ちょっと焦げると香ばしいし、チーズの油分とピーマンはよく合い、栄養価も高まる。

●にんじん
 にんじん嫌いの多くが 「あの独特の甘みが苦手」 という。甘みを感じさせない食べ方の代表は「にんじんスティック」。
お父さんに聞けばよく知っていると思うけど、生のにんじんをスティック状に切ったものをそのままポリポリかじる、あれだ。「え、、いきなり生ぁ〜」 って思うかもしれないが、にんじんは加熱するはどにあの甘さが出てくる。生が一番クセがないのだ。大人になって、このにんじんスティックを食べてからにんじんが食べられるようになった人って結構多い。一度思いきってかじってみよう。

 あと、おすすめなのは、にんじんをすり下ろして、水気を切り、こしょう、マスタードとマヨネーズで和えたものをパンにぬってサンドイッチにする。色がきれいでクセがなく食べやすい。トーストにぬってもおいしい。



【8回裏3/4】  好き嫌いこそ最大の敵。攻略法を教えよう

■これに負けては試合にも勝てない!食品別攻略法

●トマト
 トマトはそれぞれ嫌うポイントが違っていたりして、その攻略法も人それぞれだけど、食べられるようになった人のきっかけで多いのが、「丸かじり」。

包丁でくし形に切ったトマトは食べられなかったのに、畑でもいだばかりの陽に当たってまだちょっと温かいトマトにかぶりついた時、トマトに対する概念が変わったという。あと、外国種のトマトを食べてそのおいしさを知ったという人もいる。だから、思いきっていろいろ試してみると案外おいしさに目覚めやすい食材なのかもしれない。

●しいたけ
 想像以上に嫌いな人が多いのがきのこ類。中でもしいたけ。
 きのこはビタミンB群の宝庫。いろいろ新成分も発見されている注目の食べ物なのだ。できたら食べられるようにしておきたい。

 おすすめの攻略法は「炭火焼き」。できれば野外、バーベキューなどで。外の空気で、しかも炭火で焼いたしいたけを恐る恐る食べて、そのおいしさに目覚めた人が多いのだ。

 実際に炭、特に備長炭にはガス火には得られない効果がある。その独特の火力がタンパク質の分解を防ぎ、遠赤外線の効果で独特のうま味のもとを作るのだ。

 炭火焼きのきのこは特別においしい。別物だ。苦手なのを忘れて、合宿の時など機会があったら食べてみてほしい。


 と、このように、苦手だった食べ物にリベンジしてみると、発見があり、その食べ物に愛着がわくようになっているのだ。
 中には「細かく刻んで、わからなくする」方法もあるけど、それは、たまたま食べちゃったってだけで、自らの克服にはなっていない。本当にそのおいしさに気づき、目覚めたいのなら、一度は正面から挑んでみること。自分の 「大人になった味覚」 を信じて。

 ある社会人チームの選手でなすが嫌いな選手がいた。試合の時、チームメイトから冗談半分で 「おまえがなす食うたら、試合に勝てるかもしれへん」 とかつがれて食べたところ、次の日、見事に勝利。で、次の試合の前にも食べることになり、また勝ち、また食べ…ついにその大会、優勝! これ、本当の話だ。

 なすサマサマだ。その後、その選手がなすを好きになったかどうかまでは知らないが、彼の中に 「いざとなったら、なすがある」 っていうジンクスはきっと生まれたことだろう。

 嫌いな、今まで食べていないものだからこそ、時にはこんな恩恵にあずかることもある。
 さあ、未知なる味の世界を体感しよう。



【8回裏4/4】  好き嫌いこそ最大の敵。攻略法を教えよう

父母へ ■「酒のつまみで好き嫌い克服」

 高校生に酒を飲めとはいえないが、好き嫌い克服のきっかけが酒のつまみだったという大人がかなり多い。

例えば「野菜スティックでにんじんが食べられるようになった」とか、「焼き鳥屋で焼いたしいたけを塩で食へたらおいしかった」、「玉ねぎにかつお節としょうゆをかけただけのものがこんなにおいしいとは」などなど、いろいろな話を耳にする。

よく聞いていると、この3品のようなシンプルなものが多い。
いつもと違う雰囲気と酒の力があってのことかもしれないが、たまには食事の前にこんな酒のつまみ的な定番メニューを並べてみるのもいいかもしれない。
他に人気はメニュー集にも出した「手折りきゆうり味噌添え」や「川えびの唐揚げ」「山芋のたたき」「にんにくの丸揚げ」などがある。

指導者へ ■「合宿は好き嫌い克服の最適の場」

 強化合宿は体力だけではなく、食事も強化できる機会。
悲壮感が漂う強制はどうかと思うが、「出されたものは残さず食べる」の基本は崩してほしくない。やはり、合宿や寮生活を通して好き嫌いがなくなったという選手が−番多いのだ。

家にいると甘えられる食卓も、この時には試練の場。これを乗りきってこそ強くなれると選手に実感させるにはまたとないチャンスだろう。大切なのは、食卓のムード作り。

食事に専念できる環境と、明るい、前向きな試練の場とするにはそれなりのフォローアツフが必要。特に合宿の後半、食事にも飽き、疲れてくると食卓も暗くなりがち。
そんな時には、鉄板焼きや鍋料理を取り入れて、ワイワイできる環境を作ろう。



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