野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
Inning Break9  選手と一緒に育った食べ物は、一番の味方になるのだ。

 千葉県の海に近い高校野球部では、そのグラウンドの一部で野菜を作っている。もともとは花壇にしようと思っていたらしいが、その一部に野菜を植えたところ、想像以上の出来だったという。なす、トマト、ピーマン、ししとう、しその葉などなど。私が訪れたその夏はいろんな夏野菜が大豊作だったらしい。

 とれた野菜はバーベキューなどしてみんなで食べる。売っている野菜にはない形と味にチームみんなで舌鼓を打つ。
ふだんあまり得意ではない野菜がこの時には食べられる選手もいるという。みんなで育てた野菜を収穫して食べられるなんて、うらやましい限りだ。
「グラウンドは選手だけじゃなく野菜も育てちゃうんですね」というと、監督は「いや、ほとんどの選手は、野菜に勝てないでしょう」と笑った。このくらい、この時の野菜の出来はよかったらしい。

こんな豊作の中、ひとつだけ日の目を見なかった野菜があった。パプリカ(カラーピーマン)だ。順調に育ち、いよいよこれから色づこうとしていたパプリカは、面倒見のよすぎたマネジャーにひとつ残らず収穫されてしまった。

緑のピーマンに間違えられて。

「かわいそうだと思いませんか?」と、監督はマネジャーを前にわざと大きな声でいう。いわれているマネジャーは思い出して笑い転げる。パプリカには悪いけど、このネタはちゃんとできていたら、なかった収穫だ。何度聞いてもおいしい話だ。

 このチームでは監督室に炊飯器が置いてある。練習後、選手たちはマネジャーの作ったおにぎりを食べる。梅干しと手作りのしその葉を混ぜたものや、地元でとれたじゃこやかつおのフレークが具になることもある。その他、野菜は味噌汁やうどんの具などの補食として登場することもあるという。地元の食材と手作り野菜で、野菜に負けない選手に成長してほしいと思う。

 もうひとつ、収穫の喜びを知っている高校野球部がある。愛媛県といえば、柑橘類の宝庫。特に冬場は温州みかんの産地として有名だ。このチームの監督は、実家がみかん農園。収穫時には選手が手伝いに行くというのが年中行事だ。みかん畑は段々畑。足腰を鍛えるトレーニングとしても有効らしい。慣れない仕事に疲れを訴える選手もいるようだけど、同時に収穫の喜びもしっかり味わっているようだ。

温州みかんはここ数年、人気を回復しつつある。
ベータクリプトキサンチンという、抗酸化物質が柑橘類、特に温州みかんの中に多く含まれていることがわかったからだ。温州みかんは持ち運びも便利だし、簡単にむける。
冬の風邪の予防にはぴったりなのだ。

「監督、宝の山ですよ」というと、「え〜みかんってそんなにいいんですか? 知らなかった。あまりに当たり前で今の選手はあんまり食べないけど、食べさせたほうがいいんですね」と、こちらのほうがびっくりするような答え。

「冬は一日3個はみかん食べましょうよ。特にとれたてはビタミンの損失が少ないから貴重です」というと「あ、それ、全国の選手にぜひいってください。うちの親も喜びます。でも海老さん、青森に行ったらりんごがいいっていうんでしょ」と監督はうれしそうに笑っていた。

 そう、その通りなのだ。りんごにはりんごポリフエノールがたっぶりなのだ。りんごの産地の選手ならぜひりんごの収穫を手伝いに行ってほしいな。

 全国すべての選手がこういう収穫を味わうことは、ましてや育てるところから関わることは難しいかもしれないけれど、もし機会があったら面倒くさがらずに参加してみよう。食べ物に対する見方が絶対変わるはずだから。もっとおいしく食べられるようになるはずだから。


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