野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
Inning Break5  ファーストフードに逆行すれば、補食の実力が見えてくるのだ。

 兵庫県に 「発明王」と呼びたくなる高校野球部の監督がいる。思いついたものは何でも作っちゃうのだ。
出向くたびに 「これ、な、んだ?」 って、いたずら好きな少年のような笑顔と一緒に新作を見せてくれる。

 この監督と「やっぱり選手の体は地元の食材で作らなきゃノ」ということで意気投合した。ある冬「さつま芋をいっぱいもらったんやけど、練習後に食べさせるのもええよね」
「おいしそうですね〜、焼き芋なんて最高でしょうね」なんて会話があり、次に出向くと 「海老さん、こんなの作ったんよ」と監督のうれしそうな声。見ればそれはプロパンの廃材を利用した焼き芋機。

「え? これ手作りですか? すごいなぁ」と驚くと、監督はしてやったりの顔。練習の終わる時間に焼き上がるようにさつま芋を洗って皮ごと入れるという。
「アルミに包んじゃダメ。あの焼き芋のいいにおいがしないから。あのにおいで選手をつるんよ」。確かに焼き芋は皮の焼けたにおいがたまらない。

 その通りに練習後半になると、グラウンドいっぱいにいいにおいが立ちこめてきた。「でも今の選手は料理に時間が必要だってことを知らないね。みんな電子レンジでチンする感覚だから、練習の終わりになってから、これも入れていいですかって芋を持ってくる。すぐできるって思うんだろうね」とも話してくれた。

ファーストフードやレトルト食品やコンビニ食に慣れていると、調理の時間なんて考えたことがないかもしれない。
「ついでにこんなのも作った」といって監督が見せてくれたのは、焼きおにぎり機とおにぎり用のスチーマー。焼きおにぎりの香ばしいにおいとスチーマーの湯気は、縁日にでも来たみたいな雰囲気だ。

練習が終わって白い息を吐きながら、選手たちがアツアツのさつま芋やおにぎりをはおばる姿を見て、「監督、すごい贅沢な補食ですよ〜」と感動を伝えると、「そう? じや、次なんだけどね、ボン菓子ってどうかな?」ときた。
「ボン菓子。いいですね、豆とか、玄米とかいろいろ作れば、栄養価も高いし、消化もいいから食事に響かないし」。

「そう? じや、作ってみようかな?」 ということで、次に行った時にはちゃんとボン菓子製造機ができていた。

「知ってる? 大豆と米とじや圧力を変えなくちゃいけない。玄米と白米も違う。家が農家の選手が玄米や黒豆を持ってきてくれるから助かるんよ」。黒豆に玄米。栄養素の宝庫だ。しかもできあがったこれらのボン菓子に、精製されきっていない三温糖をまぶすのだ。考えただけでもうれしくなった。

 ポン菓子製造を担当するのは2年生のマネジャー。もう何度か経験済みのため手つきもプロっぽい。材料をセットして準備完了。「いきまーす」というかけ声と「ボン!」という破裂音。と同時になんともいえない香ばしいにおい。

手早くざるにあけて、砂糖をまぶす。本当においしそうだ。練習の終わった選手がすごい勢いで駆け込んでくる。帽子を器にとる選手もいる。そうだよね、本当はみんなこんなに食欲あるんだよね、と思わず感動してしまった。食べてみる。おいしい! このおいしさと栄養価はどんなスナック菓子も、どんなプロテインパウダーも到底太刀打ちできないだろう。

「ね、次は何がいいと思う?」と監督は聞いてくる。「う〜ん…大きな鍋のようなのがあれば、具だくさんのうどんやすいとん作れますよね。冬の練習の合間にはぴったりかもしれない」「あ、それいいね」…すごいバイタリティー。まさに脱帽だ。

 それからすっかりご無沙汰してしまっているけど、大鍋、できたかな?


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