野球食 Food for Baseball Players
本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。
Inning Break4  朝ごはんは、選手と監督のコミュニケーションの場でもあるのだ。

 寮のあるチームの中には、監督自らがその食事に取り組んでいるところも多い。
 大阪のある高校野球部監督は、寮の朝ごはんを自ら作る。「私が作ったものは選手、残せませんから。私が作るとなると、選手も黙って見ているわけにいかないから、手伝いもようやるようになりました」。

 確かにそれはそうだろう。監督も選手も大変かもしれないが、朝食のトレーニングとしてはこの上ない環境だ。その日の選手の疲れや精神状態なども、朝食の取り方に表れる。毎日朝食を出している監督は、その変化も見逃さないのだ。

「でも、サンドイッチではえらい目にあいましたわ。パンの時はメニューがパターン化してたのでいつも同じじゃ飽きるかと思うて、サンドイッチにしたんです。サンドイッチって作るのに結構手間かかりますね。2時間近くかかって作ってやっと選手に出したら、アッという間になくなって。おまえら、こっちの苦労も考えんと!少しは味わって食べろ!って、どなりたくなりました。次からは自分たちで作らせます」と笑顔で話してくれた。
 いいな。おいしかっただろうな、このサンドイッチ。

 監督の奥さんが食事を作る寮は多いけど、監督自らっていう例は少ない。さぞ、父母からは感謝されていると思ったら、中にはそうでもないお母さんもいたらしい。

「とにかく好き嫌いが多い選手で、寮で出すものが食べられない。それを家に連絡して母親にこぼしてたらしいんですね。食べるものが何もないって。それを聞いた母親がうのみにして、あの寮は食べ物が悪い。自分の子供は食べるものがなくて困っている、と周囲にいっていたみたいなんです」という話を聞いてびっくりした。
だって、私が見る限り、とても充実した朝ごはんなのだ。

 よかれと思って、毎日早起きしてがんばって作ってる監督には、とてもショックな出来事だっただろう。でも、大変だけど、監督にはぜひ負けずにがんばってほしい。多くの選手たちはこの毎日の朝ごはんのおかげで、確実に強くたくましい体になっているのだから。

一方、高知県の県立高校の監督は、自らが寮を作り、自分もそこで食事をしている。「朝食のごはんは丼2杯は食べろといっているんですが、ごはんの盛りつけを選手に任せていると一度によそう分量がどんどん少なくなってくるんです。
なので、食べられるようになるまで、私がよそうようにしました」とのこと。
食の細い選手にとっては災難に思うかもしれないけど、これも大事なトレーニング。
がんばってね。

 ごはんをしっかり食べるようになってくると、選手の部屋から出るゴミが変わってきたと監督はいう。「前はひどかったんです。カップラーメンやお菓子の袋だらけで。注意をしたら、ゴミをこっそり学校に持っていって捨てようとした選手がいて、見つかってまた怒られて。でも、今は自然と減りましたね、そういうゴミが」と笑っていた。

 この寮生と監督のがんばりは選手の体に正直に表れた。同じチームでありながら、寮生と自宅生の間に体格、筋力に差が出るようになったのだ。
「厳しくいっても自宅ではそれだけ甘えが出るんでしょうね。でも、これで選手も食べなければ、どんなにがんばっても体は作れないということがわかったと思います」という先生の笑顔に自信を感じた。
「同じ釜のメシを食う」ことから生まれる連帯感や信頼感は他には代え難いもの。これは選手同士のことだけではない。

 選手も、監督に相談事がある時には「先生、昼メシでも一緒に食いませんか?」と学食や弁当屋に誘ってみれば? 意外に話がスムーズに進むかも。


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