本ページはベースボールマガジン社発行
海老久美子著「野球食」から抜粋した内容を掲載しています。 |
Inning Break3 |
外で勝つためには、水分補給の強化を徹底することが大切なのだ。
|
「僕、県外のレースは苦手なんです。この前の神戸でも体調を崩しちゃつて」という彼は競歩の選手。競歩は朝早いスタートが多いらしいが、
彼は遠征に行くと、前夜から体調を崩すことが多いという。「まず、食べられないんです。
その時は具合が悪いわけじやない。でもうまくノドを通らないというか、食べにくいんです。嫌いなものじゃないんです。
あ〜おいしそうだなって思うんですけど、食べると味が、想像していた味と違うんですよね」。
あれ?って思った。
私も以前同じような経験をしたことがあるからだ。「ね、何が一番、食べにくかった?」と聞くと「えっと、まず、味噌汁とごはん。あと豆腐ですかね」。うん、そうそう。たぶん間違いない。
「それさ、たぶんだけどね、原因は水じゃないかな?」「水? 水ですか?」と彼は意外な顔をした。
水は料理の味を決める。 特に毎日食べているシンプルなものにその違いが出やすい。私も、同じお米を同じようこ炊くのに、その地域によって味が全然違うという体験をしたことがある。
彼に「お茶の味も違わなかった?」と聞くと、「お茶はあまり飲まないから。でも、水は、飲んだら変な味がしたから飲みませんでした」という。「じやあ、ごはんの時、何飲んでたの?」って聞くと、彼はちょっとばつの悪そうな顔になり「ジュースとか、スポーツドリンクかな」と答え、「だってお茶はあんまり好きじやないし、水をわざわざ買うのもなって思って。同じお金を出すなら、味ついているはうがいいかなぁって」と続けた。
そうなのだ。彼の住んでいる地方では、まだ水は買うものではない。そこにあるものなのだ。
だから彼の通う高校で調理実習をした時、水道の水を出しっぱなしにする選手が多くて驚いたことがある。
それにしても、ジュースやスポーツドリンクを飲みながらじゃ、血糖値が先に上がってますます食事が取りにくくなるだろう。
さらに彼がいうには、夏場の現地調整でも調子を崩しやすいという。地元との気温差以上の署さを感じるというのだ。彼の地元は田んぼが多いところ。たぶん、アスファルトの照り返しによる熟のせいだと思った。この差は大きい。
田んぼは、体に例えると水分補給が十分で、汗をかき、体温調節がしっかりできている状態。一方のアスファルトは水分が枯渇して汗がかけず、オーバーヒートしている状能なのだ。同じ運動をしても、体に感じる不快感にはかなり差が出てしまうのだ。
こういう事態は競技を問わない。覚えのある選手も多いだろう。例えば遠征で、例えば地区予選で、自然の多い地元から都市部へと出てきた時、ちょっとした違和感のせいで、実力を発揮できなかったなんてこともあるはずだ。
今まで日本全国いろいろな高校を回ったけど、水に関していえば都市部の水はおいしくない。海外のように水にあたることはないけれど、料理の味に影響し、人間が口から入れるものとして最もピュアでクリーンであるはずの水になじめなければ、コンディションを崩すのは当たり前だ。
だから、場所が変わったら、地元にいる時以上に水分補給に気を使おう。本文にもあるように、乾いてからでは遅いのだ。ふだんは水を買わない選手でも、遠征に出たら水は買うべきだ。全日本の選手たちも港外に行ったら、まずミネラルウォーターを確保する。選手もそのくらいの気持ちでいよう。
みんながめざしている夏の甲子園は暑いよ。すごく暑いよ。気温は35度を超え、グラウンドでは40度近くなることも珍しくない。めざしているものに技術のレベルを持っていこうとがんばっているわけだから、水分補給のレベルも夏の甲子園で通用するように強化しょう。
|
|